暦年贈与の生前贈与加算の加算期間が延長されます! そして、相続時精算課税制度が有利になりました!
投稿日:2023.02.16
暦年贈与の生前贈与加算の加算期間が延長され、ますます、相続時精算課税制度が有利になりました。
1.改正内容
2.じゃあどうすれば良いの?
をご説明いたします。
目次
1.暦年贈与の生前贈与加算の加算期間が延長の改正内容【増税】
①暦年課税の生前贈与加算について、相続開始前の加算期間が3年から7年に延長される。
②ただし、延長した4年の間に受けた贈与については、合計100万円までは相続財産に加算しない。
【適用時期】
令和6年以後の贈与から(実質的に影響が出るのは令和9年以後。加算期間が7年になる完全移行は令和13年以後)
参照元:経営革新等支援期間推進協議会の資料より
《 実務上のポイント 》
・延長された期間の控除額(合計100万円)は年間ではなく延長された期間全体の控除額に注意
参照元:経営革新等支援期間推進協議会の資料より
2.相続時精算課税制度の改正内容【減税】
①相続時精算課税制度の利用促進のため、制度選択後の贈与のうち毎年110万円までは課税しない。
②受贈した土地・建物が災害による被害を受けた場合は、相続時に被害部分を控除する。
③暦年贈与と異なり相続時に毎年110万円まで生前贈与加算がない。
【適用時期】令和6年1月1日以後
参照元:経営革新等支援期間推進協議会の資料より
3.じゃあどうすれば良いの?
①相続時精算課税で110万円の非課税を活用する。また、父母を相続時精算課税と暦年贈与で分けることにより1年間に220万円の非課税を活用することもできる。
②孫への贈与を検討する
③価格が下がっているタイミングの財産を贈与する
④相続税のかからないご家庭でも生前贈与で活用する。
⑤株式や不動産の低額譲渡のみなし贈与にも活用する
①相続時精算課税で110万円の非課税を活用する。また、父母を相続時精算課税と暦年贈与で分けることにより1年間に220万円の非課税を活用することもできる。
そもそも『相続時精算課税制度』とは?
暦年贈与とは別の贈与税の課税方式で、贈与を受ける際に財産金額が2,500万円まで非課税となります。贈与者(贈与をする人)が亡くなったときに累積贈与額(各年の基礎控除後)を相続財産の価額に加え、相続税として一括で納めます。
贈与時、2,500万円を超えた額には一律20%の贈与税がかかりますが、支払った贈与税額は相続税を計算する際に控除されます。もし控除しきれない相続時精算課税の贈与税額があれば還付されます。
相続時精算課税制度を選択できるのは、贈与者60歳以上、受贈者(贈与を受ける人)18歳以上の子や孫などの直系卑属です。
選択する場合は、贈与を受けた年の翌年2月1日~3月15日の間に一定の書類を添付して「相続時精算課税選択届出書」を提出します。また、贈与税の申告書を提出する必要がない場合は、「相続時精算課税選択届出書」を単独で提出することができます。
なお、一度相続時精算課税制度を選択すると、それ以降暦年課税への変更はできません。ただし、違う贈与者から受ける贈与に関しては暦年課税も利用できます。
今回の暦年贈与の生前贈与の加算期間の延長に加えて、相続時精算課税制度の基礎控除(110万円)新設されました。
こちらをうまく活用すれば、節税につながります。
令和6年1月1日以後の贈与に110万円の基礎控除が設けられました。贈与者と受贈者に上記に記載の一定の要件がありますが、要件を満たし、かつ毎年の贈与額を110万円以下に抑えれば、相続開始前7年以内の贈与であっても生前贈与加算されることはありません。極端な話、相続開始の日前日の贈与でも生前贈与加算されないことになります。(贈与契約は双方の合意があって成立するものなので、お亡くなりになる前日となると贈与者の意思能力に問題がある可能性があるので現実的ではありませんが。)
また、相続時精算課税制度は受贈者が贈与者ごとに選択できます(例えば、父→子A、母→子A)が、相続時精算課税制度の基礎控除110万円×2人(父と母)=220万円とならない点に注意が必要です。相続時精算課税制度の基礎控除は受贈者一人につき年間110万円までとなっています。
相続時精算課税制度の基礎控除と暦年贈与の基礎控除は併用できますので、父からの贈与は相続時精算課税制度の基礎控除110万円、母からの贈与は暦年贈与の基礎控除110万円を活用し、合計220万円まで申告をすることもなく、贈与税がかかりません。
贈与税もかからずに、生前贈与加算されずに相続税も抑えたいという方は相続時精算課税の基礎控除110万円以下の贈与をしてみてはいかがでしょうか。
②孫への贈与を検討する
暦年贈与の生前贈与加算期間の延長に伴い、子ではなく孫への贈与も検討しましょう。
暦年贈与の生前贈与の加算対象となるのは、相続や遺贈によって財産を取得する人です。
孫は原則として法定相続人にならないため、暦年贈与の生前贈与の加算が適用されません。
③価格が下がっているタイミングの財産を贈与する
価格が下がっているタイミングで財産の贈与を検討しましょう。
改正後は、暦年贈与により相続開始前7年間に受けた贈与額を相続財産に加算する必要がありますが、その額は“贈与したときの価額”となります。価格の固定の効果といいます。
価格の変動する資産の代表として、不動産、株式が挙げられます。
これらの財産の価格が下がっているときに贈与することが、将来価格が上がったら相続税の負担を軽減することができます。
また、不動産所得であれば、賃貸収入を子供が得ることができますので、生前に賃貸収入分の現金を生前贈与していることと同じ効果があります。
しかし、価格の上がっている時に贈与してしまうと逆に将来価格が下がったら相続税の負担が増えることになりますので、ご注意ください。
④相続税のかからないご家庭でも生前贈与で活用できます。
暦年贈与の生前贈与加算と相続時精算課税制度の持ち戻しは、相続税のかかるご家庭にしか起こりません。ですので、財産の総額が相続税の基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)以下の方は、毎年の贈与額を基礎控除額の110万円以下に抑えることにより、税負担なく、財産の移転を行うことができます。さらに、相続時精算課税制度を利用の場合、110万円の基礎控除額とは別に2,500万円の非課税枠が設けられていますので、まとまった財産を税負担なく移転させることができます。
例
父A(65歳)、母B、息子C(23歳)、息子Dの4人家族。父の財産総額4,000万円(内、父Aが経営している会社株式2,000万円)、父Aは息子Cに、会社を継がせたいので株式を譲りたい。
相続時精算課税制度の利用は下記のような場合に有効です。
・生前にまとまった財産を贈与して相続の道筋をたてる。
父Aが亡くなった場合、会社株式は母B,息子C、息子Dの誰に相続されるか分かりません。遺言で財産と受取人を指定できますが、父Aが生きている間に、息子Cに会社を継がせることを確定させたい、認知症などが不安などがあれば、生前に贈与をしてしまう方が得策です。
・相続を待たずに子が税負担なく親の財産を有効活用できる。
上記の例の場合、財産総額が4,500万円なので相続税の基礎控除額(3,000万円+600万円×3人(B,C,D)=4,800万円)以下なので、父Aが亡くなった際、相続税はかかりません。
また、相続時精算課税制度を利用し、父Aから息子Cへ会社株式2,000万円を贈与した場合、相続時精算課税制度の基礎控除110万円+非課税2,500万円=2,610万円以下なので、贈与税もかかりません。
⑤株式や不動産の低額譲渡のみなし贈与にも活用する
「子供だから土地、建物などの不動産を安く売ってあげた」というお話をたまに耳にします。
しかし、こちらの事例の安く売った金額によっては贈与税課税の対象となります。
贈与税にはいわゆる『みなし贈与』という規定があります。
この規定は、「タダでものをあげたら贈与税がかかるなら、低い金額(例えば1円)で売ったことにすれば贈与税を回避できるのでは?」という租税回避を想定して制定されています。
簡単にいうと時価と売買代金の差額を贈与税の課税対象とするものです。
みなし贈与に該当するかの判断基準は法律などで定められていないので、税務署の判断ということになりますが、土地取引の場合であれば、「時価の80%未満の価格」を指すとの判断されています。(東京地方裁判所の平成19年8月23日判決)
例えば土地の金額が4,000万円で、子供に安く売った金額が1,500万円の場合、
4,000万円×0.8=3,200万円>1,500万円で、みなし贈与が発生していると考えられます。
4,000万円―1,500万円―110万円(暦年基礎控除)=2,390万円 がみなし贈与となり、
税額として約810万円(特例税率を使用)を納めなくていけなくなってしまいます。
上記の事例で活躍するのが、相続時精算課税制度。
相続時精算課税制度には2,500万円の非課税枠があるので、
4,000万円―1,500万円―110万円(相続時精算課税基礎控除)=2,390万円≦2,500万円と非課税枠に収まり、みなし贈与税負担なしで財産を移転することができます。
相続時精算課税制度の利用は下記のような場合にも有効です
・株式や不動産の贈与はできないけど、売買はしたい。ただ時価で売りたいとまでは思わない。
株式や不動産の贈与、みなし贈与に相続時精算課税制度を利用する際にご注意いただきたい点は次のような点になります。
・相続税が発生する場合、贈与時の価額で持ち戻される
・相続税が発生する場合、持ち戻された土地に小規模宅地の特例が使えない